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夢を叶える男の子の育て方(うまのブログ)#21

大空に舞い上がる巣立ちの兆し

 

健介はある夜、不思議な夢を見た。

学校の帰りに公園の横を通ると、雑草と思っていたヤブカラシにきれいなオレンジ色の花が咲いていた。見落としそうな小さな花だが、その花に大きなスズメバチが来て蜜を吸っていた。スズメバチに刺されると大変なので、健介は逃げようとしたが足が動かない。でもスズメバチはやがて蜜を吸い終わって、どこかに飛んでいった。ほっとした瞬間、健介は自分の身体が軽くなって、いつの間にか少し浮いているのに気が付いた。足元を見ると、自分の足が地面からほんの少し離れていた。

「浮いている!」

健介は驚きのあまり大声で叫んだ。何だかとてもうれしい気持ちになってきた。健介は両手を鳥が羽ばたくようにパタパタと動かしてみながら、再び足元を見ると足が地面からどんどん離れていく。もう一メートルは離れている。さらに動かすとフワリフワリと高くなる。もう電線の高さを超えている。楽しくてたまらない。目の高さをさっき見たスズメバチが飛んでいる。でも今は少しも怖くない。

不可能だと思っていたことができるようになった喜びが、全身を駆け巡った。

健介がこの夢を見るのは初めてではない。今までにも何度か見たことがある。そしてこの夢を見た時は、必ずその後にとても良いことが起きるのだ。きっと良いことが起きる予感があったのかもしれない。いや、もっともっと強い自信のようなものが心にあったのかもしれない。

この日の夕方、あたりが暗くなりかけた頃、健介は康太と二人でお宮の裏にあるクヌギ林にカブトムシを捕りに出かけた。この森はかつて炭を作るためのクヌギやカシを育てていた所で、今でも大木が何本も立っている。この樹液に夜になるとたくさんの種類の虫たちが集まってくる。カブトムシ、コクワガタ、コカブト、ノコギリクワガタ、アカアシクワガタなど。本当に運が良ければ、オオクワガタがいることもある。オオクワガタは七センチもあるような超大物もいる。夕食後二人は、懐中電灯と虫かごと捕虫網を手に森に向かった。まず最初のポイントだ。ここの木は細いが、よくクワガタが捕れるカシの木だ。二人は声を合わせて足でこの木の幹を蹴っ飛ばす。と同時にバラバラバラと木の上の方から、雨のように何かが落ちてくる。クワガタの雨だ。ノコギリクワガタ、コクワガタが雨のように降ってくる。一度に二十匹も捕まえた。

「大漁だ!」

次はクヌギの大木だ。昼は紫色に輝く大型の蝶、オオムラサキが何十匹も樹液に群がっている木だ。予定通りだった。たくさんのカブトムシが樹液に集まっている。まるでみんなで頭を寄せ合って、むずかしい会議をしているようだ。シロスジカミキリやミヤマカマキリもいる。ゴミムシやシデムシまで来ている。夜の森は本当ににぎやかだ。

二人は次々とクヌギやカシの幹や、根元の樹液の出ているところを見て回り、一時間もしないで七十匹以上のカブトムシやクワガタムシを捕まえた。大満足だった。健介も康太も、勝ち誇ったお相撲さんのように胸を張って、森の小道を手をつないで家に向かった。

森の入り口まで来た時、健介は足を止めた。森の入り口に立っている、大きな桜の古木が目当てだった。ここで町の人が、三年前にオオクワガタを捕ったことがあったからだ。

暗いじめじめした洞の中は、甘酸っぱい樹液のにおいがしている。健介は桜の木の洞の中を懐中電灯で照らしてみた。真っ暗な雨水がたまっている洞の中に、何かうごめくものが見えているではないか。

「いた!オオクワだ!」

そこに見えたのは、巨大な黒光りした角を付け、触角をピクピクさせたオオクワガタの姿だった。健介の手はブルブル震えた。生まれて初めて見る生きたオオクワガタ。しかも七センチをはるかに超える大きさだ。日本最大級のオオクワガタだった。こんな大きさは図鑑にも載っていなかった。

家に戻って康太と定規をあてて正確な大きさを測ってみた。何と八センチ二ミリ!日本記録だ。かつて誰一人としてこんな大きさのオオクワガタを捕った者はいない。

何か良いことがある時は、健介は決まって空を飛ぶ夢を見た。偶然に見たわけではない。健介は前からいつもオオクワガタを捕りたいと思い続けていた。その結果、予感がして空を飛ぶ夢につながったように、自分では思っている。だから夢を見続けている者はこんな経験をすることが多い。この「予感」こそが、夢に向かっている者のみが経験する不思議な出来事なのだ。

 

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