夢を叶える男の子の育て方(うまのブログ)#46
紙芝居のおじさん
健介は週に三回、銭湯前の広場にあるヒマラヤ杉の下にやってくる紙芝居が大好きだ。何が好きかと言うと、黄金バットの大活躍の話はもちろんおもしろいが、それよりおじさんと話をするのが好きだった。
「健ちゃん、今日は何がほしいんだい?」
「今日は水あめが欲しいの・・・ねえ、おじさんにいいものあげる」
健介はポケットの中に手を入れながら自慢げに言った。
「何だい、健ちゃん」
「ドングリ、テッポウドングリ、こっちの丸いのがオカメドングリ。学校の裏山で採ったの」
「たくさんあったのかい?」
「うん、たーくさん拾ったよ。全部で百個以上あるよ。マッチ棒をさして、コマを作るんだよ。よく回るんだ。すごくいいコマができるよ。おじさんにもあげるから作ってごらん」
「ありがとう。健ちゃんはどんぐり採りの名人だね」
「うん、また採ってくるね。秘密の場所、知ってるからね」
「そりゃあ楽しみだ。また頼むよ」
うん、今度はもっと大きいのを採ってくるね」
健介はいつもこのおじさんに褒められると自信がわいてくる。なんでもできるような気持ちになってくる。ますますその日の出来事を話したくなるのだ。夢中になって話す健介を、ニコニコとうなずきながら眺めてくれる。
「じゃあ、黄金バット前回のつづきー、始めまーす。黄金バットは、我が身に迫った絶体絶命の、この危機からどうすれば脱出できるのでしょうかー?」
健介はこのおじさんの紙芝居を始める時の得意顔が好きだった。少し天を見上げた顔、空に向かって叫ぶような、その話し方がいかにも芝居がかっていておかしかった。
そんなおじさんがある日を最後にぱたりと姿を見せなくなった。
そしてしばらくすると、別なもう少し年の若いおじさんに代わった。
新しいおじさんの紙芝居もとてもおもしろかったが、健介には何か別の「黄金バット」を見ているような感じがした。さびしさだったのかもしれないが、どことなく物足りない気持ちがしてつまらなかった。
それからひと月たった頃、あの紙芝居のおじさんが病気で亡くなったことを聞いた。
「あんなに僕の話を聞いてくれた、あんなに僕を励ましてくれたおじさんがいなくなるなんて」
健介はこの時初めて深い悲しみを知った。かけがえのない人を失った悲しみを強く感じた。こんなに悲しいことってあるんだと思った。
あのおじさんの「わっはっはー」と笑う黄金バットの笑い声が、いつまでも聞こえてくるような気がしてさびしかった。
健介にとって、このおじさんの存在はかけがえのないものだった。健介のポケットの中には、おじさんにあげる予定のドングリがたくさん入っていた。